超高齢化社会によって年々増加するシニア運転者。彼らが生涯現役で人生を謳歌できるためにと、教習所ではセフモやde.Sukasuといった最先端のテクノロジーが導入され始まっている。高齢者ドライバーにまつわる社会課題や、テクノロジーによる解決方法など教習所でのリアルな取り組みについてオファサポートに勤める永吉氏に伺った。
——今回は超高齢化社会において、シニア運転者が生涯現役で人生を謳歌できる社会を実現するにあたって、教習所、あるいはオファサポート社のセフモというような最先端テクノロジーがどのようにサポートできるのかお伺いします。まずはじめに、これまでのご経歴をお教えください。
商業高校を卒業後、飲食店やインターネット回線・健康食品の販売の経験を経て30歳頃にオファサポートに入社しました。入社当初は訪問リハビリマッサージ業(医療療養事業部)の相談員として、あん摩マッサージ指圧師を高齢者の自宅や施設へ派遣し身体の機能改善を図る介護に近い現場にて従事しておりました。4年ほど勤めたあと、本社の人事部、社内ITインフラ等を整備するIT事業部を経て、現在は、システム開発を主とするDX事業部にて自動車教習所とリハビリを繋ぐセフモの事業開発に携わっています。
永吉優介|YUSUKE NAGAYOSHI
商業高にて簿記・情報処理関係の資格を取得。インターネット回線や健康食品の営業を経験後にオファサポートの高齢者へリハビリを提供する事業部の相談員(営業)として入社。実績を積み管理職として3年間従事後、後任育成の成果を評価され宮崎本社人事部へ異動。営業や管理職、リハビリ事業の経験を活かし、自動車学校×リハビリ×AIのシステム開発を行うDX事業部の管理者として販売戦略、ステークホルダーとの折衝、システム開発を担っている。セダン・ドライブ好き。 PHOTOGRAPH: YURINA TOMITAKA
身近なシニアドライバーの課題
——現在、高齢者ドライバーにまつわる社会システムについて注目が集まっています。セフモはこれについて解決策となりますが、今の想いをお聞かせください。
率直な想いとして、高齢者ドライバーの問題はとても身近なものだと感じています。最近私の父は病気をきっかけに運転をやめたのですが、そこから一気に体力が落ちてしまいました。実はまだ64歳の若さなんです。
——早いですね。
そうなんです。やっぱり車の運転をやめたらこうなるというのが一気に来たかなと。そして杖や歩行器がないと歩けず、今は施設に入所しています。
共に事業開発に取り組んでいるチームメンバーも、同じように父親の免許返納時期をどのタイミングにするか迷っていたそうです。認知機能のテストを受けて、一定の点数を取ってしまったら返納する、というルールを決めようとしていたのですが、逆にどんなに危ない運転をしていても点数が悪くなければ乗り続けられるというのもまたおかしいと思っていて、こういった点が高齢者ドライバーの身近な問題だと感じています。
こういった経緯もあり、現在取り組んでいるセフモ事業やde.Sukasuを使うことで、視空間認知能力の測定やトレーニングをしたり、想定結果を利用して免許返納の指標ができるというのは大きな部分だと感じています。
実は、私は本来視空間認知能力はそう図れるものではないと思っているんです。視空間認知能力の衰えによって事故を起こした際に、責任を取るのはご本人やご家族になってしまいますが、その手前の段階でサポートやトレーニングできるものがあると大きく変わってくると思います。
株式会社オファサポート|OFA SUPPORT INC.
2006年南九州自動車教習所創立、2008年株式会社オファサポートを設立。One For All の頭文字を取り、OFA SUPPORTが誕生。 ひとりはみんなのためにを理念にOne TEAMとして、職域にとらわれず各従業員が色んな職域にチャレンジすることにより、現在、13事業を運営。自動車学校、医療、介護、ホテル、ペットショップ、ジャイアンツアカデミー、PCR、システム開発等々...。今後、更なる事業発展を目指しチャレンジを続ける。
PHOTOGRAPH: YURINA TOMITAKA
運転免許と自由
——あらためて高齢者ドライバーにまつわる社会課題についてお教えください。
70歳以上の免許保有者は1200万人ほどいて、毎年300~400万人ほどの方が全国の教習所等へ来校し免許更新に係る教習や講習を受けています。その中には免許更新へ家族が反対されている方や、家族の病院送迎や生活のために免許の更新が必要な方、仕事で使っている方、次の更新で返納することを考えている方など、様々です。
高齢ドライバーによる事故が多発したことで世の中の免許返納への意識が高まり、免許返納が加速しつつあったのですが、2019年の60万件で頭打ちし、現在は徐々に下降している傾向がみられます。
高齢者の方々が免許返納の際に迷うポイントとしては、まずは自分の生活圏が狭くなることです。はじめて車の免許を取った時に行ける範囲が広がったように、免許を失うことで自由に行けるところが減るとなると、本人の生きがいも減ってしまうように感じます。特に田舎の方では電車で移動する感覚があまりないので、免許を失うと買い物に行けない、病院に行けない、家族でも毎回は頼みづらいといった当たり前の生活ができなくなり、どこにもいけなくなるイメージは強くなると思います。
PHOTOGRAPH: YURINA TOMITAKA
生きがいを保つサービス、セフモ
——免許返納がダイレクトに生活に影響するわけですね。そういった中、セフモ事業はどのような解決策を狙っているのでしょうか。
セフモは、高齢者の方が最後まで人生を全うする生きがいを保つためのサービスです。生きがいを持続させたり、ご本人のやりたいことを全うさせるための練習となるシステムであってほしいと思っています。具体的なソリューションの内容としては、運転技能検査でセフモに乗っていただき能力を測定。結果の悪かった方に対して、再試験前にセフモでトレーニングを受けていただく、というものになっています。
実際教習所では約85%の方が実費を払ってでもトレーニングを受けてくださっていますが、特にここに対して営業をかけているわけでもないんです。再試験に合格できなかったら「免許を失う」という実害がかかっているので、大学試験と同じように「受からないといけない」という感覚でみなさん受けているのだと思います。
——85%もいらっしゃるんですね。
他のケースとしては、その場ではセフモの利用をお断りされた方の中にも、帰宅後に奥様から説得されて「やっぱり申し込みます」とお電話をくださったケースも数件ありました。誰かが運転できなくなるということは、ご本人だけでなく周囲の方々にとってもクリティカルな問題なんです。ご家族には「事故を起こさないためにトレーニングをしてほしい」という願いがありますが、それを直接伝えると喧嘩になってしまいます。なのでこのセフモを説得の理由として、「教習所からそう言われたなら、それはお金を払ってでも受けませんか」と声をかけることで、再度申し込まれる方がいるのだと思います。
またセフモの具体的な内容は、運転技能検査の違反項目を360°ビューカメラで捉えてフィードバックをするものになります。左折時に中央線を踏んでいないかどうかや一時停止線オーバーなど、自分の走行時の違反を点数化するとともに、実際に映像を見て振り返っていただくことで、自分の運転に改善の意識を持っていただきます。他には異常検知機能がついており、急加速や急ブレーキといった走行中のおかしな行動には自動でチェックがつくようになっています。
こういったスムーズでない運転を指導することで、行動で事故になりやすい運転ポイントの注意が可能になります。もともとこの運転技能検査は、重大な事故になりかねない危ない運転をしている方を炙り出すための違反項目を設定しているんです。なので、一時停止線や段差乗り上げのチェックをすることで、将来的な事故につながる運転を検査できるようになっています。
PHOTOGRAPH: YURINA TOMITAKA
トレーニングなくして事業は継続しないことからde.Sukasu導入へ
——試験結果と運転リスクの相関が可視化されていて、セフモだけでも十分内容が充実しているように感じますが、その中でde.Sukasuを導入した理由や意義はどのようなところにあったのでしょうか。
弊社では、AIで自動的に評価ができる仕組みを作ったり、車に様々なセンサーをつけることで自動で信号が取れたりなど、運転技能の評価における開発は長く取り組んでいました。実際セフモをご利用いただいた方からは高評価を受けており、一般ユーザーだけでなく行政の方からも好評なサービスでした。
ですが、その多くの方が結果に納得して帰られるものの、再度利用しようとしてくださる方が少ないという課題に直面しました。運転の評価をするだけではダメなんだ、改善するためのトレーニングがないとこの事業は続かない、と感じたんです。そのため、視空間認知能力の測定やトレーニングができるde.Sukasuを導入しようと決めました。
——なるほど、継続率を意識されていたんですね。ちなみに今のところ導入されてからこれまでの反応や継続率、所感などありますか?
利用者の現状としては、VRやタブレットでの検査というのは体験したことのない方がほとんどなので、いい反応が多く見られていると感じます。アプローチ次第で継続していただけるかが決まると思うので、今後もそこには力を入れていきたいです。
PHOTOGRAPH: YURINA TOMITAKA
高齢者ドライバーが集まるコミュニティにしていきたい
——今後の展望についてお教えください。
今後のセフモとde.Sukasuの結びつきとしては、自動車学校と高齢者の方がもっとつながるきっかけになればと思っています。もっと自動車学校が、車を運転する方々と繋がっていったり、高齢者の方々が集まるコミュニティにしていきたいです。
高齢者の方は、例えば18歳で免許を取られたとすると、次自動車学校に来るのは70歳となり、52年間訪れる機会は無くなります。そしてその間には運転の仕方が自己流になっていくので、70歳の免許更新時に改善点を言われてもそう簡単に長年の癖は治らないんです。もちろんリハビリをして治していくケースもありますが、それより前の段階で通っていただいたり、若い頃に企業研修で関わっていただいたりと、自動車学校に足を運ぶきっかけを作っていきたいです。
これまでは免許更新をすれば運転をできる時代でしたが、安全に乗るために運転のトレーニングをすることが当たり前となる時代になり、セフモやde.Sukasuといったサービスが身近になっていければと思います。
PHOTOGRAPH: YURINA TOMITAKA
——免許返納をきっかけに、父親の著しい体力低下を目の当たりにしたと語る永吉氏。もしセフモやde.Sukasuといったサービスが5年前から実用化されていたら、父の現状は変わっていたかもしれないと永吉氏は話した。
病気に限らず、公道で事故を起こしてしまった際など、高齢者が免許返納を彷彿する機会は身の回りに多くあるだろう。しかし、車を運転し続けることは有効な認知機能トレーニングの一つであり、運転の機会を失うことで、脳や体の衰えが加速するリスクも充分にある。また免許を失うことは高齢者の自信喪失にもつながり、身体だけでなく精神的な影響も大きい。
認知能力の衰退を理由に免許を取り上げるのではなく、トレーニングをすることで運転できる期間を伸ばし、少しでも長く、安全に運転を楽しめる高齢者が増えてほしいと考える。医者から診断を受けるために病院へ足を運ぶことが当たり前であるように、運転技能のトレーニングを受けるために教習所に通うことも当たり前となる世の中を目指す永吉氏の目は朗らかだが鋭くあった。
(Interview by Jukan Tateisi / Text by Rina Miura)
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